ある時、人と人との間を、何かの塊みたいな感覚が、行ったり来たりしているのを感じた。
それは、会話のキャッチボールとはまったく違う、異質な感覚。
そのとき、2人は、何かのことで苛立っていた。
原因は忘れてしまった。
私は、苛立ち。
相手は、それに困る。
ふっ、と。
腹の中から何かが抜けて、相手の方へ入った感じがした。
その瞬間に、苛立ちは消え、
自分が何かに不快になり、苛立っていたことが、消え去った。
しかし、苛立ちが消えたからと言って、今言っていた事実はなくならない。
なんだか冷静になり、周囲のことがよく見えるようになっただけで、言葉を発していることには変わらない。
が、状況が変わってきた。
自分の主張を押し通しすぎたのか、今度は相手が怒り出した。
ひとしきり怒っていると、
ふっと、塊がこちらに移ってきた。
今度は、こちらが苛立ち始めた。
怒ることに対して、怒りを感じた。
そうすると、こちらは感情的になり、相手は、なんだか言い過ぎたかもしれないと、少し申し訳なさそうな表情をしている。
かといって、こちらの苛立ちは収まらない。
ワアーーーーっと、感情を出すと、
今度はその感情の塊が、相手に移動し、相手の感情に火をつける。
まるで、感情の火種があっちこっちに火をつけるかのように。
お互いが、苛立って、怒り合って、冷静になる頃には、その塊は、どこかへ行ってしまっている。
目的は、わからない。
でも、その塊が抜けた瞬間の、『なんで相手がこんなに感情的になっているのだろう。』
と言う気持ちは、不思議でならない。
だって、相手が感情的になるまえに、自分がその塊の影響で感情的になっているのだから。
面白いことは、数日が過ぎて、その話を聞いても、
相手は怒っていたことをほとんど忘れていると言うこと。
僕はと言えば、しっかり覚えている。
よく観察している事だから。
でも、相手は忘れている。
感情的になった事実を覚えていないことは、非常に多い。
いったいなぜ、こんなことが起こるのだろう。